魚野川釣行(先発隊)

期日:2012年6月14日〜2012年6月17日

ミナト(L)、アベ、つりし


行程:6月14日 切明5:30〜渋沢ダム8:00〜黒沢BC14:00
  :6月15日 黒沢BC6:00〜魚止めゼン13:00〜黒沢BC15:30
  :6月16日 黒沢BC7:00〜渋沢ダム11:00  後発隊と合流
  :6月17日 合同下山



 

ミナト


6月14日(晴)
 梅雨入りしたというのに、この晴天はどういうことだろうか。切明からの急登を終え、汗を拭う我々に降り注ぐ眩しい日差しと、蝉
しぐれの水平歩道。これが今回の夢のような山行の幕開けであった。
 延々と続く緑のトンネルも左からの沢音が大きくなり、川底の小石がはっきり見えるようになると漸く渋沢ダムが姿を現す。ダムか
ら上流を眺め、「しばらくぶりだな」とつぶやく。魚野川は十年前と変わらぬ姿で、穏やかにダム湖に流れ込んでいた。渋沢をつり橋
で渡り、魚野川への踏み跡を辿ると、脇に自転車が3台置かれている。奥多摩あたりの登山道でMTBを見ることは最近では珍しくなく
なってきたが、「こんな処まで…」と、少し落胆してしまった。
 河原に降り立ち沢装備を身に着ける。十年前はずいぶん緊張して入渓したのだが、今回はアベさん、つりしさんのエキスパートが同
行してくれているので緊張感は皆無であった。
魚野川への第一歩を踏み出すと、十年前と変わらず水勢は足を払うかのごとく強く太い。二度、三度と徒渉を繰り返し、千沢を左に分
け両側が切立ち廊下状になると、ダムの影響を受けない魚野川本来の姿になる。この廊下の通過に手間取るようであると、ここから先
の遡行は困難を極めることになる。今日の魚野川は大変機嫌が良いようで、我々にも上機嫌で遡行を続けさせてもらえるようである。
ブナ、ミズナラ、オオシラビソの原生林を穏やかに流れる魚野川に我々はすっかり溶け込み、そして淵尻で時おり尾ビレを動かし留ま
っている岩魚達を見ていると、まるで太古の時代にタイムスリップしたような錯覚を覚える。
最初の悪場は左岸の巻道を利用する。水量が多いと通過できない次の悪場はそのまま突き進む。この水量程度では問題なく遡行できる
ようだ。高沢の出合い左岸のへつりと、その先の大滝の丸太渡りに少し緊張し、雪渓跡でウドとコゴミの山の恵みを少々頂くと、ベー
スキャンプとなる黒沢出合いのシンボルであるナマリ岩が見えてきた。

渋沢ダムに流入する魚野川 最初の廊下
魚野川に溶け込みます 高沢出会いのへつりです
テン場前の淵でつりしさんが瞬く間に人数分の岩魚を釣り上げる。アベさんのナメロウと塩焼き、さらにウドとコゴミが花を添え至福
の時を過ごす。真っ赤に燃える焚き火を囲み、下戸のミナトではあるが、持参の梅酒が最終日まで持たないのではないかと心配になる
ほどであった。
大滝の難所 テン場前でもつれます
山の恵みを頂きます 岩魚はどこにでもいます

6月15日(晴)
 梅雨の只中なのに奇跡のような快晴。こんなに恵まれて本当にいいのだろうか。今日は庄九郎沢出合いまで釣り上がる予定だ。
 しかし、この好条件では魚影が濃すぎて、遥か手前の魚止めゼン(この地方の方言で滝のことをセンと呼ぶ)までしか届かないであ
ろう。
でも、「それでもいいじゃないか」という気分が三人に漂っている。
黒沢から先は水量もぐっと減り、日本庭園的な穏やかな渓相が続くようになる。遡行は優しく、そして岩魚は何処にでもいる。
運悪く針にかかった岩魚の綺麗さに思わず見入ってしまう。真珠のような肌に鮮やかなオレンジ色のパーマーク、
水勢の強さに負けないよう大きく発達した胸ビレと尾ビレが特徴的なまさしく天然のニッコウイワナである。
魚体に触らぬよう針だけを掴み、クイッとひねると針からはずれた岩魚は元気よく流れに戻っていく。
カエシの無い針だから出来る芸当だ。冷水に住む岩魚にとって人間の体温は相当な高温であるので、リリースする場合は魚体に触れ
てはならない。触れてしまうと火傷状態になり、いずれ死んでしまうという。
つりしさんが、釣りをせず岩の上にあぐらをかき、キラキラ輝く美しい流れを見つめていた。
「釣らないんですか?」と声をかけると、「なんだか釣りするのがどうでもよくなっちゃってさ…、無邪気な岩魚達を見ているだけで
満足しちゃっているんですよ。」
「私も同感です。どうしてなんですかねぇ、釣りをしにきたのに…」
ルアーで先行しているアベさんに追いつく。アベさんも釣りをせず、ちいさな水たまりで岩魚と遊んでいた。
同じように「どうです、釣れましたか?」、「うん、ルアーを投げればいくらでも追ってくるよ。
でも岩魚が針にかかる前に引き上げちゃうんだ。なんとなくさぁ…、釣るのが可哀そうな気がしてさ」。
三人が三人とも、釣りをしに来たのに、岩魚は何処にでもいるのに、そしてその気になればいくらでも釣れるのに、釣り欲が失せてし
まうこの川の不思議さはどういうことなのであろうか。此処は太古からの自然がそのまま残されている奇跡の聖地。
そして、その自然に認められ生存を許されている岩魚達は、此の地の先住民である。我々はその先住民を殺戮するべく聖地に侵入し
てきたのだが、その途方もなく豊かな、そして圧倒的に優しい自然の力、岩魚の力に屈服させられてしまったのであろうか。
でもそんなことはどうでもいい。理由などどうでもいい。
三人が三人とも此処にいるだけで穏やかな、幸せな気分に満たされ、釣り欲が失せてしまったことは本当の事実であったのだから。
案の定、魚止めゼンで時間切れとなる。魚止めゼンの大きな滝壺には、巨大な岩魚が居るらしい。
しかし、今日は留守のようであり、そして我々の夢のような釣行も終焉を迎えた。
テント場に戻り、後発隊用に魚野川より頂いた岩魚達を、五時間かけて焚火で焼き枯らす。
せっかく頂いた渓の恵みなので、無駄にならないよう感謝の念を込めて。
幸せな時間が流れます 魚止めゼンが見えてきました
魚止めゼンの大物は留守でした 丹精込めて焼き枯らします

6月16日(雨のち曇り)
今日はテントを撤収し、後発隊の待つ渋沢ダムへ降りるだけだ。小雨が降る中、後発隊へのお土産で少し重くなったザックを背に下降
を開始する。途中の雪渓では、ウドとコゴミの嬉しい重さがさらに加わった。二つの巻道を確認し、廊下状を通過すると懐かしいダム
湖の河原になる。「さあ、岩魚を待つ後発隊の笑顔までもう少しだ!」後発隊に会いたい気持ちと、帰りたくない気持ちが半々のまま
、三人はダムサイトを目指しゆっくりと歩を進めた。以降は後発隊の楽しい記録
スリル満点です 渋沢ダムに近づく・・・まだ帰りたくない