谷川岳・一ノ倉沢南稜

 

あつこ

期日:2010年7月31〜8月1日
参加者:笹田(CL)、ニシノ、カト、あつこ、グッチー


7月30日
王子駅21:00〜一の倉沢出合駐車場0:30
7月31日
一ノ倉沢出合駐車場5:20〜南稜取付7:50〜終了点12:10〜国境稜線登山道16:45〜谷川岳18:05〜一ノ倉沢出合駐車場23:10
8月1日
小河さんのレリーフにお参り後、帰京

7月31日
 4時半起床、5:20出発。一ノ倉沢を少し進んだ所で右岸の踏み跡に分け入る。しばらく歩いた後再び一ノ倉沢に戻り、切れ落ちた雪渓の間を縫って左岸に渡る。雪渓上をしばらく進み、次第に傾斜が強くなった所でテールリッジ末端に取り付くが、シュルンドが出来ていて乗り移るのに苦労した。乗り移った先のスラブもよく滑り、残置のフィックスロープを使って何とか進む。が、腐ったロープもあるため、注意を要する。長い行程に備えて背負い込んだ食料と水が重くのしかかり、暑さと重さと緊張で汗が滝のように流れ落ちる。1時間もすると手がしびれ始め、脱水症状気味になっていた。ブッシュ帯を過ぎると再びスラブ帯で、ここでアンザイレンをしフラットソールに履き替える。途端に歩きやすくなるが、相変わらずの厳しいルートに、南稜テラスに着く頃には完全にバテきっていた。
 登攀はニシノ・カト組が先行し、笹田・グッチー・あつこ組が続く。笹田組は笹田さんリードであとの2人を引っ張り上げていただく。南稜は人気ルートとのことで混雑を覚悟していたが、前にも後ろにも他のパーティーはおらず、自分達のペースで登ることができるのが嬉しい。また、登攀中に何度か雨がぱらついたが、すぐに止んだのもありがたかった。
 1P目は登りやすい岩場を一段上がり、チムニーの手前で一度ピッチを切る。2P目は出だしのチムニーが濡れていて登りにくく、苦労した。3P目はフェースで難しい部分はあるものの、確保されている安心感から快適に登る。4P目はなだらかな笹薮についた踏み跡を、ロープを引きずって進むだけ。ここだけリードさせていただいた。5P目はフェースを左上し、リッジの左側へ。ここでしばし待機するが、振り向くとものすごい岩壁が聳えていた。6P目はリッジの左側から右側へ。トポでは20mでピッチを切っているが、50mいっぱい伸ばして最終ピッチ下までつなげる。このあたりから浮石が多くなり、注意を要する。クラックに体を挟み込んでよじ登るがなかなか厳しく、何度かロープをつかんでしまった。最終ピッチは核心の垂壁。ひたすらヌンチャクにしがみつき、ずり落ちそうになりながら何とか乗り越えて終了。しかし、登ったわけではなく登らせていただいたことが明白で、取り付きまでの醜態と相まって、満足感よりも敗北感のほうが大きかった。
テールリッジ。つるつるした岩でよく滑ります 南稜5P目を登るカトさん
笹田さんのビレイで、あっちゃん余裕の微笑み 南稜最終ピッチを登る笹田さん。最後が渋い

 終了点から左に1段上がったところに5人がどうにか収まるスペースがあり、そこで登山靴に履き替えコンテに切り替える。ここから先は草付きを詰め、国境稜線まで。集会で4ルンゼは最後の詰めが核心と聞いていたが、この南稜も同じで異常に悪かった。終了点からいくらも進まないうちに行き詰まる。笹田さんに先に登っていただき、ビレーしていただいてゴンボウで何とか登った。コンテで進める箇所はほとんどなく、スタカットで進むため時間がかかる。足場が不安定なうえ浮石が多く、残置ロープもほとんどが腐っていて気が抜けない。ピンも少なく、細い木数本を巻き締めて使うなどの笹田さんの工夫が勉強になった。
ようやく稜線に出ると遠くに一ノ倉岳が見える。ここからはコンテで進むことができるようになり、グッチーを先頭にやせた稜線を進む。その後笹薮の踏み跡に入るが、次第に丈が高くなり踏み跡が隠れるようになる。肩まで埋もれる笹薮をひたすら掻き分けて進み、登攀終了から4時間半、ようやく登山道に出た。皆で抱き合って無事を喜び合う。しかし、時刻は16時半を回っていた。
 一ノ倉岳で記念撮影後、谷川岳に向けて出発。ここまでずっと水不足に悩まされていたため、肩の小屋の飲料を目指して自然と歩調が速くなる。オキの耳もトマの耳もすっ飛ばし、18時過ぎに肩の小屋に到着。一息ついた後、西黒尾根から巌剛新道へ向けて下山を開始する。しばらくして雨が降り始め、止みそうで止まずに降り続く。濡れた岩は滑りやすく、鎖場などでは細心の注意を払った。時間が経つにつれて徐々につまづく回数が多くなが、皆気力は十分で、励まし合いながら黙々と歩く。しかし、またしても水不足に悩まされ、これが一番こたえた。ようやくマチガ沢に出た時は心底ほっとしたが、道のりはまだまだ長く、ヘッドライトの反射を何度か人工物と見間違えながら気が遠くなるような時間を経て、ようやく22時半過ぎに道路に出ることが出来た。2度とハイキング後の林道歩きに文句は言いませんと誓いながら30分ほど歩き、出発してから17時間50分後の23:10、ようやく駐車場に帰還した。翌日は幽ノ沢右俣の予定だったが、ボロボロな我々の姿に笹田さんが中止を宣言してくださる。今夜は好きなだけ飲んでよしとの言葉に、1時過ぎまで飲みながら語らった。
南稜終了点から烏帽子岩を望む ナイフリッジを慎重に抜ける
笹薮を抜けて国境稜線に出た 一の倉岳山頂に到着!

  7月31日
 6時半頃起床、ゆっくり朝食をとってから小河さんのレリーフへ向かう。広い登山道から山側に少し分け入った東京電力の鉄塔の脇に、一ノ倉岳を望むようにしてレリーフが据えられていた。土台には少し苔が生えていて、歴史が感じられる。ありし日のザイルの友を偲んで、という言葉がすっと胸に入ってくる。と同時に、前日に南稜の終了点で感じた敗北感がよみがえった。安易に来て良い場所ではないということを今更ながら実感した。
小河さんのレリーフの前で 昨日登った一の倉沢をバックに

   帰りに一ノ倉沢出合から見た風景は来た時と全く違っていて、深々と頭を下げて参りましたと言いたい気分だった。もっと練習を重ねて、いずれまた自信をもって来れるように努力したいと思う。貴重な経験をさせて下さった笹田さんを始め同行の皆様、本当にありがとうございました。