剱岳(チンネ)

あつこ

期日:2009年8月22〜26日
参加者:笹田(CL)、いた、カト、あつこ


8月22日
室堂7:30〜雷鳥沢キャンプ場8:10〜剱御前小屋10:05〜剣山荘11:00〜長次郎雪渓出合13:00〜真砂沢キャンプ場13:50
8月23日
真砂沢キャンプ場5:30〜二股吊橋7:05〜仙人峠9:40〜池の平小屋10:30〜三の窓16:20
8月24日
三の窓5:30〜中央チムニー取り付き6:20〜チンネ頂上9:55〜三の窓12:30〜池の平山20:10〜池の平小屋22:40
8月25日
池の平小屋8:35〜仙人小屋9:50〜仙人温泉13:00〜仙人谷ダム17:00〜阿曽原温泉小屋18:30
8月26日
阿曽原温泉小屋5:20〜折尾滝7:40〜大太鼓8:45〜欅平12:30

8月22日
 前日の22:30に竹橋からバスで出発。エッケンさんが見送りに来て下さり、差し入れにハーゲンダッツのアイスクリームをいただいた。
バスは満員で、翌6:50に室堂ターミナルに到着。お盆過ぎのためか人は少なく、雷鳥沢キャンプ場にはテントが25張程度で、剱山荘を越えてからは学習院大学の二人組とすれ違ったのみだった。剱沢は雪渓が少なく、所々大きく切れている。しばらくザレた夏道を進んだ後、アイゼンなしで雪渓を歩き、13:50に真砂沢キャンプに到着した。テントは学習院大学の巨大テント1張、我々ともう1張の3張のみ。カトさんのささみの燻製に舌鼓を打ちながら、静かで幸せなひとときを過ごした。夜中に寒さと酸欠で目を覚ますと、満天の星が輝いていた。
室堂からスタート 劔沢からは劔岳が一望

8月23日
 4:00起床。剱沢を下る。途中、「黒四ダムへはこの雪渓を渡る」との標識があるが、当の雪渓は見事に切れ落ちていた。が、その先に丸太橋を発見。途中、鎖場があるが、河原を通って迂回できた。7:05に二股吊橋を渡り、三の窓雪渓を望む。ここから仙人新道の急登が始まり、8:20にはベンチから小窓雪渓が見えた。小窓上部に雪渓はなく、また、池の平小屋側から小窓雪渓に向けて、一直線に山肌を横切るルートが見える。小窓へは、小窓雪渓を通るルートと池の平山を越えるルートがあるが、行きは小窓雪渓を通ることになった。10:30に池の平小屋に到着し、ご好意により荷物をデポさせていただけることになる。しかも、戻ったらお風呂を使わせていただけるとのこと。暖かいお心遣いに感謝しつつ、翌日17時頃には戻る予定と伝え、出発。しかし、この言葉が翌日小屋の方々を心配させることになる。

 1時間ほど山道を歩いた後雪渓に出るが、ちょうど正面付近に滝が流れ落ちていた。しばらくは雪渓を避けて脇のガレ場を進み、その後アイゼンなしで雪渓を登った。途中で下降してくる関西の三人組パーティーとすれ違ったが、その後人とは出会わなかった。雪渓上部で右側のガレ場と草むらを通り、道に出る。ここからは浮き石の多いガレ場が続き、神経を使った。ルートファインディングも難しく、ガレた岩場を登りつめて越えた後、巻き道を発見した箇所もあった。小窓から先では、急な雪渓が2か所あるとの事前情報を得ていたが、1つ目(幅5m程度)は上部の雪渓が切れた場所を通ることができた。2つ目(幅10m程度)は巻くことができなかったため、ロープを張り、腰に結んだシュリンゲとロープにカラビナを通して渡った。小窓雪渓からはしばらく霧がかかっていたが、この頃から薄くなり始め、前方にチンネが姿を現す。と同時にブロッケン現象が現れ、2重の虹に歓声を上げた。疲れを忘れ、しばし絶景を堪能。
 しかし、ここから三の窓までガレガレザレザレの下りが続き、人がいないため少しは気が楽なものの、精神体力ともに消耗した。16:30三の窓に到着、テントを設営。誰もいない三の窓は外界から完全に隔離されており、静寂の中、夕暮れを迎えた。付近に水は流れておらず、雪渓の縁を削って溶かして使用した。笹田Lの判断により、翌日は中央チムニー〜aバンド〜bクラックを登ることになった。
二股吊橋を渡る
北方稜線からの小窓の王 三の窓からの絶景

8月24日
 3:00起床。他にパーティーがいないためゆっくり支度をし、5:30日の出とともに出発。軽アイゼンをつけて雪渓を渡り、ガレ場を慎重に進んで取り付きへ向かう。6:20登攀開始。笹田・いた組が先行し、後続のカト・あつこ組のためにヌンチャクを残置して下さる。カト・あつこ組は初の同期ツルベ登攀で、緊張と高揚が入り交じる。

1P目:カトさんリード。30m程度。ビレー点が日陰のため、ビレー中寒さで手足が震える。ホールドもスタンスも十分あり、気持ちよく登る。
2P目:あつこリード。45mほど。登り始めてすぐ、左からかぶってくる壁に挟まって身動きが取れず、苦戦する。ヌンチャクを掴み、いたさんに励まされどうにか越えるが、リードで落ちる恐怖をひととき味わった。その後は長いピッチを存分に楽しむ。ロープが曲がっているせいか、重くて動きづらい。声も届かず、声以外の合図も確認しておくべきだったと反省。この上はロープが触れても落石が起きるという中央バンド。4人一緒に行動した方が良いとのことで、笹田さんといたさんが待っていて下さり、全員で移動した。
3P目:あつこリード。20mのaバンド。足下が切れ落ち抜群の高度感だが、ホールドもスタンスも十分にあり、気持ちよく登れる。
4P目:カトさんリード。20m。bクラックを右上する。登り始めが難しい。「本チャンを同期同士でツルベで登っている」ことを改めて実感し、こみ上げてくるものがあった。一瞬鼻がツンとなる。
5P目:あつこリード。傾斜の落ちた岩溝を登る。傾斜が少ないためか、先行の笹田組の残置ヌンチャクが少なく、自分の進むルートが正しいか迷いながら進むうち、頂上に到着。え?ここが頂上?としばらく事態が飲み込めなかったが、ビレーをするうちにじわじわと喜びがこみ上げてきて、登ってきたカトさんとハグして喜び合った。後から聞くと、ベテランの笹田組は我々の様子を見て慌てて握手を交わしたとのこと。頂上で小休止した後、登山靴に履き替えて下山開始。懸垂下降を2度行い、これでもかとガレた池ノ谷ガリーを下り、三の窓へ向かう。

 テントを撤収し、12:30に三の窓を出発。池の平小屋へは、小窓雪渓を下るのを避け、池の平山経由で戻ることにする。しかし、この選択が悲劇を招いた。小窓の先の、残置ロープが数箇所に見られる場所から取り付いたのだが、最初から木登りと岩登りをミックスしたような急登が立ちはだかる。笹田さんが上からロープを下ろして下さり、コンテやごんぼうを交えて、あらゆるものを引っつかんでがむしゃらに登るが、越えても越えても次々に壁のような急登が現れる。途中から、笹田・あつこ組といた・カト組の2人1組コンテで進んだ。壁が終わると、今度はこれでもかというハイマツの藪こぎ。前の人が見えないほどに密生した枝と根に埋もれ阻まれ押し戻され、ひたすらもがく。
 やがて夕暮れを迎え、ヘッドライトをつけて歩き続けるが、ピークを越えてもまだ先にピークがあり、結局3つのピークを越えた。ビバークをしようにも水がないため、何としても池の平小屋まで帰らねばならず、笹田さんにハッパをかけられ、皆で励まし合い、足を引きずるようにして進んだ。途中、左(北西)側が切れ落ちた稜線を渡る箇所を通り、20時過ぎにようやく本物の頂上に辿り着いた。ケルンとそこから続く道を見つけ、人工物のありがたさが身にしみた。あとは下るだけだが、全員疲労困憊で足どりは重く、やっとの思いで池の平小屋に到着したのが22:40。驚愕の17時間行動だった。
 この日は卵スープとはちみつ湯だけ飲んで、倒れるように就寝。翌日聞いた話によると、これまでで一番遅いパーティーが21:30着とのことで、小屋の方は21時頃まで待っていて下さったらしい。心配をおかけした上、不名誉な記録を更新してしまった。しかし、苦しいことばかりではなく、木イチゴをむさぼったり、稜線から見える富山の町の光に見惚れたり、満天の星空と天の川に感動したり、忘れられない夜となった。
いよいよチンネ登攀 bクラックを登る笹田リーダー
aバンドを登るカトさん 夕暮れ…

8月25日
 6時起床。ゆっくり朝食をとって支度をし、8:35に出発。仙人小屋までは木道が整備されており、快晴の下、気持ち良く歩く。仙人小屋では名物おばあさんにお会いし、お話を伺った。仙人池に写る剱岳を堪能した後、仙人温泉へと下る。仙人温泉小屋では、池の平小屋のスタッフの方と偶然お会いし、昨夜我々の歩いたルートが正しかったことを知る。しかし、あのルートを点線とはいえエアリアに載せるのはいかがなものかと皆で首をひねった。仙人温泉から先の雲切新道は悪路と聞いていたが、昨夜池の平山を越えた我々には道があるだけでありがたい。とはいえ、前日からの疲労をひきずり、歩みは遅々として進まず、阿曽原温泉に着いたのは日没とほぼ同時の18:30だった。ここで衝撃の事件が。小屋で受付をしていると、中から出てきた登山客数人に「あ、昨日の北方稜線の人たち!夜中の2時頃着いた!」と声をかけられる。確かに池の平小屋でお会いした方々なのだが、2時着とは一体。しっかり訂正させていただいた。
 その後、受付で露天風呂の説明を受けるが、風呂まで下り5分、登り10分程度と聞き、疲労困憊の我々は「やめます」と一言。全員、これ以上1分たりとも歩けないほど疲れ切っていた。しかし、すかさず先ほどのパーティーに「絶対入った方が良い」との猛プッシュを受け、陥落。男女1時間交代制なのだが、宿泊客が少ないため急遽女性タイムに調整していただき、テント設営後にいたさんと入りに行った。真っ暗な道をヘッドライトを頼りに降りていくと、暗闇の中に露天風呂の湯気が立っている。風呂とすのこ以外何もなく、大自然の中、川のせせらぎと星空を堪能しながら疲れを癒した。男性陣と交代した後、テントで改めて生還を祝い合う。池の平山の苦労が大きすぎて霞んでしまったが、改めてチンネ登攀も祝い合った。
仙人池に映る劔

8月26日
 前日の足の遅さから、早めに出発することにする。3時起床、5:20出発。この日は水平歩道を歩くだけと楽観していたが、いきなり登りが始まる。17時間行動の疲労は癒えるどころか蓄積しており、足を引きずりながらどうにか歩く。その後ようやく「水平」歩道が始まるが、歩道は切り立った山肌をコの字にくりぬくように作られており、先人の大仕事に感嘆しながら進んだ。途中で欅平が見えるが、見えてからが長い。それでもどうにか歩き通し、12:30欅平到着。トロッコで絶景を堪能しながら宇奈月へ向かい、駅前のホテルの温泉で汗を流した。乗り換えの都合により魚津で2時間ほど時間ができ、入ったお店の魚料理がすばらしくおいしかった。地元の食に舌鼓を打ちながら、再度合宿の成功を祝い合い、帰路に着いた。

   今回は、信頼できる仲間の大切さが身に沁みた山行だった。3日目の予期せぬ17時間行動では、行動食も水もなくなり先も見えなかったが、笹田Lへの絶対的な信頼のもと、体力的には苦しくても精神的には追い込まれずに歩き通すことができた。また、疲労困憊ながらもポジティブなことしか口にしないいたさん・カトさんにはたくさんの勇気をいただき、人生の先輩方として、山だけでなく日常でも見習いたいと思った。また、日頃のトレーニングの大切さも痛感した。体力がなければ今回の行程はこなせなかったと思う。改めて、参加の皆さま、事前のトレーニングに協力して下さった方々、本当にありがとうございました。