槍ヶ岳・北鎌尾根

ニシノ

参加者:(CL)深沢、ニシノ

7月19日
上高地5:50…明神6:30…徳沢7:20…横尾8:20…槍沢ロッジ9:50…大曲10:55…水俣乗越12:20…北鎌沢出合14:30
7月20日
北鎌沢出合4:30…北鎌のコル7:30…天狗の腰掛(2749m)8:40…北鎌独標11:05…北鎌平14:40…槍ヶ岳16:50…槍岳山荘17:30…殺生ヒュッテ18:00
7月21日
殺生ヒュッテ6:40…大曲8:05…槍沢ロッジ8:35…横尾山荘9:45…徳沢10:50…明神11:45…上高地12:40

7月19日 晴れ
 前夜、新宿20:00発のあずさで松本へ向かい、深沢さんと合流。そのまま沢渡へ直行し、市営第二駐車場で幕営。さすがに3連休だけあって、夜中から車の出入りが激しい。
 翌朝、沢渡からタクシーに相乗りし、上高地へ。早朝にもかかわらず、すざまじい人。さすがに好天予報の3連休のことはある。上高地から明神、徳沢、横尾への道は、ほとんど平坦な散策路だ。深沢さんとともに快調にとばしていく。…しかし暑い。
 横尾から本格的な山道らしくなってくる。とはいえ槍沢ロッジまでは高低差もさほど感じない樹林帯だ。沢の流れを左手に眺め、ごうごうと流れる音を聞きながら歩く。少し坂が急になってきたなと思うと、ほどなく槍沢ロッジに到着。ちょっとだけ槍の穂先が見える。ここからは少しずつ勾配が強くなっていく。ババ平のキャンプ場を過ぎ、さらに進み、水俣乗越との分岐・大曲に到着。ここで長めの休憩を取る。
 水俣乗越への道は涸沢をジグザグに登っていく。等高線で見るとおりの急勾配をゆっくりと登りながら、次第に息があがっていく。シナノキンバイなどの高山植物がずいぶん咲いているが全く見る余裕がない。ヨタヨタしながら、なんとか水俣乗越へ到着。

 ここからは地形図にも道の表示がない、バリエーションルートとなる。天井沢の下りはかなり明確に踏み跡がついているが、下り始めはかなり急で、ザレているところは足を滑らせそうで怖い。ほどなく雪渓が現われるが、雪渓の脇につけられた道を歩く。途中、樹林帯が切れたあたりから、かなり急な雪渓を下らなくてはならなくなり、持ってきていた6本爪のアイゼンを付けて下る。
 雪渓がなくなったところでアイゼンをはずし、涸れた沢をひたすら下る。大きな岩がゴロゴロしているように見えるが、よく見ると歩きやすい石があり、道のようになっている。ひたすら下るうちに、左手に水がごうごうと流れる沢が現われ、さらに進むと北鎌沢出合へ。小さなケルンが目印だ(注:ケルンは流されてなくなることが多く、いつも同じものがあるとは限らないらしい。しかし、地形図と照合すれば特徴がある地形で、比較的分かりやすいと思われる)。
 明日登る場所を正面に見られる場所にテントを張り、早々に入山祝い。深沢さんの作ってくれた焼きビーフンやかぼちゃのほうとうに舌鼓を打ち、冷たい沢の水で冷やしたビールを飲む。翌日は長く厳しい行程になりそうなので、早めに就寝。
明神から徳沢への道からは明神岳が 天井沢の下り。途中に長く急な雪渓
翌日歩く北鎌尾根が見える 深沢さん作の夕食はほうとう
7月20日 曇り時々雨
 3:00起床。今日はいよいよ北鎌尾根を歩く。1食分減ったのに、ザックが昨日より重いように感じる。登攀具ははじめからつけていった。
 まずは北鎌沢を北鎌のコルに向かって遡行する。標高差660m、かなりの急登だ。しかも苦手の濡れた岩。深沢さんのはからいで先頭を歩かせてもらったが、慎重に滑らないようにと歩き、かなり体力を消耗する。沢を2/3ほど過ぎた頃、右側にかなり明瞭な踏み跡があり、そちらに入ったら、どんどん沢から離れてしまった。草つきの急斜面をトラバースして、数度足を滑らせるが、なんとかもとの沢に戻る(ここで一気に体力と気力消耗)。上部には雪渓の急斜面。深沢さんが先行し、ロープを出してくれた。下から見ていると、なくてもいけるのでは?と思ったが、出してもらって正解。雪は変に堅くてキックステップが効きづらく、木の枝をピッケル替わりにしながら進んだ。雪渓が切れたあとも急斜面が続く。魂が半分抜けたような状態で北鎌のコルに到着。
 コルからはいよいよ稜線歩き。まずはP8を目指す。踏み跡はそこそこにあるが、急な草つきの斜面。ハイマツなどを掴みながら慎重に登っていく。P8を越え、さらにひたすら岩稜を歩く。登りが妙につらく、息があがる。P9(天狗の腰掛)は、少し広いピーク(ここで幕営する人もいるらしい)。目の前に独標がそびえ、威圧感がある。ここで長めの休憩。
 独標のコルに向かって下ったあと、右側をトラバースしていく。緑のフィックスロープのある岩を過ぎ、少し歩くとトラバース道への明確な踏み跡。が、ザイルを出し、岩を直登して独標を登ることにする。深沢さんリードで軽やかに登っていく。ビレイをしていると寒い。ビレイ解除のコールがあり、登る…が、始めの一手が悪い。なかなかスタートできず焦るが、気持ちを落ち着かせて濡れて滑りそうなスタンスに立ちこむ。その後はなんとか進み、1ピッチ終了。2ピッチ目(深沢さんリード)はさほど難しくなく、頂上手前までいき、そのままザイルを引いて山頂へ。下を見ると、トラバース道を行く人が何人も見えた。

 稜線は基本的に「ピークへは稜線通しに直登し、下りは右側を巻くようにする」。トラバース道もかなり多くついているのだが、実はあまりよくなかったりするようだ。今回もほとんど直登した。
 独標から先も岩稜が続く。右を巻いて下り、ピークを直登、を繰り返す。P12、13あたりが白く脆いガレ場。急な下りに足がすくむ。後ろから来ていたガイドさんにアドバイスをもらいながら、半泣きで下る。そして、こともあろうにピークのひとつ手前の岩を登ってしまった。先行している深沢さんから「そっちは違うぞ!降りて巻いてきて」と指示がくる。またもや半泣きで悪い岩場を下り、深沢さんが待つピークへ向かう。ピーク直下の岩場も非常にもろく、深沢さんが上からロープを出してくれた。
 苦手なガレの下りで気力を使い果たし、すっかりヨボヨボ。さらにアップダウンが続き、北鎌平が遠い。P15を越え、黒く大きな岩がゴロゴロとしている広い尾根に出た。ここが北鎌平。本来はここから槍ヶ岳が大きく見えるのだそうだが、真っ白なガスで何も見えない。
 ここから頂上へ最後の登り。大きな岩のゴロゴロした稜線を進む。岩をひとつひとつ、飛ぶように歩く。しばらく歩くと「Berg Heil(登頂おめでとう)、穂先は近い、気を抜かずに頑張れ」のレリーフ。そうか、近いんだ…。ちょっとだけ気持ちが軽くなる。そのうちに、岩場が登場。まず1ピッチ、深沢さんが登る。チムニーをすんなりと登っていく。続いて私も登る。ここは大丈夫そうだ。そして最後の1ピッチで深沢さんが「最後はニシノがリードするように」…こんなにヨボヨボなのに? しかし有り難く(!)リードで登らせていただく。疲れていて、チムニーの始めの一歩がうまく出せない。1クリップ目が遠く、怖い。深沢さんにアドバイスをもらいながらなんとかチムニーをクリア。本来はそこから左に巻けばすぐに山頂らしいのだが、先行パーティーがいてロープワークで難航しているので、右に行ってしまった。…悪かった。ランニングを取れそうなボルトも岩もない。1ヶ所だけ岩にスリングをかけてランニングをとる。山頂のほこらが見えているのに、スタンス・ホールドがうまく探せない。それでもなんとか登りきり、祠の裏側から山頂へ到着し、ビレイ解除のコール。深沢さんもすぐに登ってこられた。山頂でがっちり握手(注:本来はチムニーの先、左側を登る。右は本当にランニングを取るところもなく危険。ナッツでもあれば岩の割れ目にうまく噛ませられるが、軽量化を考えたら持っていくべきではないと思う)。
 時間もかなり遅いので、さくさくと槍岳山荘に向かって下る。何度か歩いているルートだが、大きなザックを背負ってここを下るのは初めてで、疲れも重なっていつもより怖さを感じる。そして槍岳山荘に着き、テン場の申込をしようとしたら…「本日テント満席です。殺生ヒュッテに行ってください」。…そんな殺生な。
 やむなく下ること30分。この30分の長かったこと。そしてテント場にあきスペースがいくつもありそうなのを見て、心底ホッとする。夜は深沢さんお手製のマーボ−ナスと、ガーリックライス。美味しいご飯とお酒に幸せを感じつつ、あっという間に睡魔が襲ってきて就寝。
北鎌沢。この沢を詰めていく 北鎌沢上部の雪渓。写真で見るより急斜面
天狗の腰掛?ガスで何も見えない ちょっとだけ晴れ間もあった
厳しい岩稜歩きが続く 槍ヶ岳山頂。やっぱりガスガス
7月21日 快晴
 今日は下山するだけ。遅く起き、ゆっくりと朝食をとる。テントを出ると昨日とはうって変わった快晴。真っ白で何も見えなかった場所には槍ヶ岳が大きくそびえていた。素早くテントを撤収し、スタート。早朝からじりじりと日差しが照りつける。槍沢はかなり雪渓が残っていて、夏道と雪渓を交互に歩くような感じ。雪渓のほとんどは踏まれてトレースになっているのだが、足に疲れがたまり、ストップがきかないようで怖い。楽しそうに雪渓を下っていく深沢さんの姿がどんどん遠ざかるが、めげずにヨボヨボ歩く。
 雪渓が切れ、大曲を過ぎると、樹林帯に入っていく。一昨日に歩いた道だ。高低差もさほどなくなり、あいかわらず飛ぶように下る深沢さんのあとを、ときどき小走りで追い掛けながら歩く。槍沢、横尾、徳沢、明神。下りは本当に長く感じる。ただひたすらに歩き、人がスズナリになっているような河童橋にたどりつき、ほっとするような、下界の喧噪にうんざりするような。
 タクシーで沢渡に戻り、いつもの「梓湖畔の湯」で汗を流し、向かいにある店でそばを食べ。深沢さんに松本まで送っていただき、あずさで帰途についた。
翌朝は快晴。槍ヶ岳もきれいに眺められた 横尾まで下山。屏風岩もくっきりと
 本当に中身の濃い3日間でした。予想以上に早くばててしまい、疲れきって楽しむ余裕はありませんでしたが、雪渓の通過、沢登り、岩登り、ガレ場の通過、ルートファインディング。北鎌尾根はバリエーションにおけるすべての要素が詰まった、すばらしいルートだと思いました。さらに体力と技術を上げ、また訪れたいと思います。こんどは「心から楽しむ」ために。