ふるさとの山 那須岳

人見 邦明


期日 2月5日(月)
メンバー 人見邦明
タイム 9:00大丸――10:45峠避難小屋――茶臼岳山頂11:30――13:00大丸着


田舎の実家に帰るときはいつでも山歩きの用意をしていく。栃木県那須町。那須岳登山口まで車で二十分で行ける。夏なら有料道路のブースが開く前に通り抜けて1時間半で山頂に立てる。さっさと下山し、9時には殺生石近くの「鹿の湯」という趣のある温泉に入って朝風呂としゃれこめる。今回の帰省は亡父の十三回忌法要だから無理なことはするつもりはない。
 前日はお坊さんに読経してもらい墓参、会場を別にもうけて飲食会。さらに家に戻ってからも第二次宴会。田舎の酒飲みはだらだらとしつこく続く。親戚縁者や兄弟が久しく集い、当然二日酔いになった。
 5日。7時すぎ頭痛で起床。外に出てぶるっと身震いする。体の火照りを冷まし、見上げると那須山(地元ではこう言う)が朝日を浴びて輝いている。空には一点の雲もない。すぐに決心して朝飯をかきこむ。
 通常はロープウェイ山麓駅上の駐車場まで行けるのだが、冬期は積雪のため大丸温泉駐車場で車止めとなっている。温泉客の車数台が寂しそうに凍りついたままになっている。駐車して装備を身につける。アイゼンを装着するのも北八つ以来1ヶ月ぶりだ。9時出発。前日に吹雪いたようで踏み跡が消されていて、一部ラッセルを強いられる。後から3人が私の踏みあとを歩いてくる。南向きの斜面は無風、暑くてたまらない。それにしても久しぶりの山歩き、まして昨夜は暴飲暴食、出っ張った腹が邪魔でしょうがない。ペースが上がらないまま、汗だくで峠の駐車場まで歩く。本来ならここが出発点だ。タオルで汗を拭いしばし休む。乾いた喉にお茶とみかんが染みわたるようにうまい。
 ゴローの革靴を履いていると踵がすれて痛い。峰の茶屋の避難小屋までは何としても行かなければ、山岳会員として沽券にかかわる。踵をかばいながらゆっくり歩く。それにしてもなんという快晴、なんと気持ちのいい日なのだろう。
 やっと峠にたどり着く。雪をかぶった会津方面の山稜がすばらしい。ここは強風の通り道だが、今日は小屋の中には入らなくても暖かい。いつものように朝日岳を攻める。冬期は手前の剣が峰を尾根伝いに直登すればいい。雪が着いていないので、斜面のガレ場が悪い。足に不安もあるので、今日は簡単にあきらめる。茶臼岳に行き先を変更する。
 今なお噴煙たなびく茶臼岳。絶え間ないシューシューという噴出音を聞きつつ、硫黄のにおいを嗅ぎながら、11時半山頂着。小さくガッツポーズを作って、祠に手を触れた。子供の頃から那須岳の標高をヒクイナ、1917メートルと覚えていた。ここは那須連山の主峰だが、実際には那須岳最高峰は三本槍で、この茶臼岳は1897.6メートル。
 四十過ぎてから始めた山登り。ふるさとに帰ったら必ず登ろうと決めた那須岳。子供の頃や若い頃には山に登ろうなどという気持ちはなかった。家人は冬山は危ないというが、こうしてちゃんと登れる。山岳会で私も少しは鍛えられたと思う。ここに会の仲間がいたらさぞ楽しいことだろう。今日は思わぬ好天に恵まれ、久しぶりに山の空気を吸い、体をいじめることができた。
 関東平野が霞んで見え、実家がのあたりを目で追ってみる。ここから見るとふるさとも小さい。人の世も小さく見える。
  満ち足りた思いで下山。母のけんちん汁を食べて帰京の途についた。
                            (平成13年2月6日)