〜白毛門にて猛吹雪〜        佐藤 勝也
 
期  日  1998年11月22日(日)〜23日(月)
メンバー  水野二朗、加藤まゆみ、佐藤勝也
 
 初の冬山にむけての練習、といったつもりの谷川岳山行だったのですが、予想外の展開となりました。
 
 朝7時に新宿で二朗さんと待ち合わせ。当日までに地図を買っておくようにとのお達しがあったのですが、すっかり忘れてしまいました。(そして今、ここに国土地理院の地形図が手元にある。270円。安い)
 
 二朗さんの運転で、赤羽まで行き、そこで加藤さんと合流。3人で関越道を走っていきましたが、運転するのは二朗さんだけ。行きも帰りも長い時間、ご苦労様でした。
 
 お昼頃、土合駅に到着。スキーのゲレンデの麓の静かな、紅葉が今が見頃といった感じのいい所でした。
 
 荷物を降ろし、各自、登山の準備にかかりました。私は水筒、弁当がリュックに入らないので、その脇にぶら下げていこうとしたのですが、二朗さんは「貸してみろ」と言って、ぎゅうぎゅうにリュックに詰め込みました。リュックにぶら下げると、登る時、疲れるそうです。
 
 でも、その詰め具合が私にはショックでした。私は汚さないようにとかきれいにといった意識が強くて、整頓気味でした。そうじゃなくて、どれだけ楽に登れるかを考えていなくてはならんのだ、と思いました。それを一言で言うならば、「ワイルド」だ。
 
 加藤さんが先頭、次に私、しんがり二朗さんという順番で歩いていきました。そして麓に第一の難関が現れた!小川を渡るアスファルトの橋が崩壊していて(車で来る途中でもいつぞやの大雨による山崩れの現場を見ました)、そこには板切れや倒木が危うげに渡してあるだけでして、そこを渡らなければ先には進めませんっ。二朗さんはすたすた渡っていき、加藤さんがそれに続きました。私の頭の中には、橋の途中でふらふらして川に落っこちる自分のイメージができあがっていました。そう考えると足もすくみます。そこで私は四つんばいになって匍匐前進で渡りました。やった。
 
 初めての私がいるということで、スローペースで登っていきました。山は思っていた以上に雪が残っており、アイゼンを持って来ていない二朗さんと私は不安でした。そしてその不安は見事的中するのですが。
 
 てくてく登っていくと、左側には谷川岳、マチガ沢、一の倉岳のすんばらしい雪模様の峰が見えました。きれいだあと思って、しばらくしてまた見ると、霧が立ち込めてもう全く見えなくなっていました。「山の天候は変わりやすい」という言葉を思い出しました。そしてその後、その変わりようの凄まじさを身をもって知るのでした。
 
 隣りの山には天神平のスキー場があり、そこで流れている放送がこちらまでかすかに届き、私達は急な勾配やら岩場やらを休憩を取りつつ登っていきました。てっぺんは視界にあるのですが、アップダウンの連続でなかなか辿り着きません。そしてかれこれ3時間が過ぎたでしょうか。
 
 雪がちらほら舞っているのに気づきました。大したことはない、と思っていたら、いつのまにか辺りは雲海の中のような景色に変わっており、猛吹雪が吹き荒れていました。ここで急遽予定を変更、どこか平らな場所でテントを張り、そこで泊り、夜が明けたら今来た道を戻ろうということとなりました。前を歩く加藤さんの髪の毛が雪で白髪のようです。ちなみに今登っているのは白毛門です。
 
 いい場所はなく、ついに山頂へ着きました。白毛門の碑で記念撮影もそこそこにテント設営に取りかかりました。この時の気温、なんとマイナス3度!手や足がぶるぶる震えっぱなしでしたが、それを聞いてますます震えが止まらなくなりました。私は死・ぬ・か・も・知・れん?と思いました。二朗さんも楽観はできないといったような面持ちです。
 
 力を合わせ、テントが完成。皆で身を寄せ合い、火を起こしていると、暖まってきました。まだ4時過ぎですが、夕飯の準備を始めました。3人とも酒を持ってきていたので、不足はありません。しかも私はウィスキーをボトルごと持ってきてしまいました。水筒に詰め替えていれば、かさばらんし、重くなかったと後悔しました。おでんに袋ラーメン、つまみ菓子をたらふく食べました。お酒もぐびぐび飲みました。外は恐ろしい獣が吠えるかのような雪嵐です。私はもしこれでテントが吹き飛ばされたら、絶対死ぬと考えました。
 
 そのうち小便がしたくなり、その真っ暗な上に吹雪の中へ出て行き、放尿しました。今回の山行の楽しみの一つに、満天の星を眺めるというのがありましたが、ひとつとして発見することはできませんでした。
 
 シュラフの中は暖かでしたが、くるぶしから下の部分が氷のように冷たく、夜中に何度も目が覚めました。そして、夜が明けました。
 
 雪は止んでいましたが、かなり降り積もっていて、アイゼンなしで大丈夫かなと思いましたが、前日に同じ山を登っていた大学生らしき爽やかな登山家達、総勢十数名の一行がちょうど私らの前を通過し、彼らが作った道を辿っていくことができ、随分と助かりました。
 
 そういったこともあり、予定よりも早く下ることができました。下りてくるにつれ気温も上昇し、助かったと実感しました。
 
 朝日岳などを回ることができず、残念でしたが(実質歩いていた時間は6時間もないのでは)、どのような準備をしたらよいかということを実感した2日間でした。二朗さん、加藤さん、どうもありがとうございました。
 
【編集者注】 「シュラフの中は暖か…、くるぶしから下が冷たい…。」とありますが恐らく靴下を重ね履きしたか、窮屈な靴下を履いたことが原因だと思います。寒いからと靴下を重ねて履くことがありますが、そうすると血行が悪くなり却って冷えます。足(脚ではない)だけが冷たいときは靴下を1枚だけにしたほうが暖かです。どうしても2枚重ねて履きたいと言うのならワンサイズ大きいものを用意しましょう。(ダクロンの象足という手もある)
 
 あと某J氏のパッキングを「ワイルド!」と言っていますが、同感です。大分前になりますが剱沢での撤収の日、どうしてもコップがザックに入らず苦労していた某Jさんは何を思ったかそのコップを力任せに押しつぶしてザックの中にめでたく収納(押し込んだ?)しました。目を丸くしてその一部始終を観察していた私にJ氏は「このコップは形状記憶合金で出来ているんだ!」と得意気に言い放ちました…。なお、そのコップは今だに彼の愛用品です。