行動食(レーション)のお話


その1 岡田真也氏のレーションは…

 私の冬山での行動用食糧をお話ししろとのCLの命により乱筆ながらお話しいたしましょう。

 今を去ること18年前、高校時代に初めて雪の八ヶ岳に登ったときのことです。まだ雪山がどういう所か知らずに先輩に言われるまま立てた食糧計画ではたしか、行動食として「黒棒」と「マリービスケット」「東鳩オールレーズン」などをメインに、共同で用意していったと記憶しています。それに個人持ちで思い思いの菓子類を持っていきました。

 加藤文太郎にかぶれた友人は煮干し甘納豆蒲鉾を持ってきていました。かくいう自分はと言えばベビーチーズ魚肉ソーセージを持っていきました。なぜこの選択になったかと言えば天幕の中では即座に酒の友に転用できるからという安直な考え方からです。いま思えばこの選択は十数年に渡る長いつきあいになる非常に賢明な選択でした。実際に行動食に適した物は乾いていて甘い物のウエィトが大きくなるので、甘い物の合間には結構おいしくいただけます。

 それから数年、某大学山岳部に所属するようになった自分は現在のスタイルを編み出しました。チョコレートを持っていくようになりましたが、当時持っていったのはハーシーのばかでかい板チョコ(当時ペコちゃんでお馴染みの不二家に勤めていて調達しやすかったので)でした。カロメの愛称でお馴染みのカロリーメイトが出現したのもこのころだったと思います。当時はまずくて食べるのに一苦労でした。「山岳部員はカロリーメイトを水無しで一気に一箱食えなくてはいけない」という当時の先輩の訳のわからないありがたいお言葉によって馴れたのと、時とともにカロリーメイトの味も向上したことも相まって現在ではその入手しやすさ(駅で手軽に補充できる)も相まってすっかり気に入っています。

 食べかたは被り式のナイロンダブルヤッケの胸ポケットに前夜のうちに一日の行動中に必要な分だけを入れておきます。すぐに出して食べるためと凍らせないためです。冬季には大休止はとれないのでおなかが減りすぎる前に適宜休憩の時や歩きながら、またビレイを取りながら人目を気にせずに食します。

 結論として言えばまず食べられること(たとえば凍ってしまって歯が立たない物では役に立ちません)、食べやすいこと(疲れたり、まわりの状況などが最悪の場合でも食べなくてはならないことから自分の好きな物が一番です)、すぐに熱量に変換できること(寒さと重労作でおなかが減り、空腹だと寒さが倍加します)、軽いこと(荷物の軽量化は大切です)などの条件を勘案して自分なりの快適な行動食およびその組み合わせを探し出しましょう。人の行動食もよく見て参考にしましょう。当然参考にならない場合もあります。

 その結果がカロリーメイト、魚肉ソーセージ、ベビーチーズ、チョコレート(今凝っているのはキットカットの小袋)の組み合わせとなっているわけです。

 今では夏山はおろか仕事の遠足の時もこのレーションで済ませているくらいで失笑を買っています。

 北稜メモの編集人である中村CLから、山で行動中に食ってるもんについて書け!と厳しいお言葉があったので、私の独断と偏見に満ちあふれた、私にとっての正しい行動食のあり方について少々ウンチクを傾けてみたいと思い、筆をとった次第でございます(本当は五十音の書いてあるボタンをピコピコ押してるんですが)。

 だいたいですね、まじめに(ここがポイント)山登りしている時なんてまともなもんを食おうというのは所詮無理な話です。ですからまじめに山登りしている時の大原則は、私としては、吉野屋の牛丼だと思うのです(べつに安くなくてもいいですけど)。それに加えて、栄養価が高いとか気分がリフレッシュできるとかいった付加価値的要素も行動食を選ぶ基準の大きな部分を占めているでしょう。もっと細かいことを言えばすぐに燃焼させてエネルギーに転換できる炭水化物系統がいいとか、味付けした小魚をポケットに入れといていつでも食えるようにしておくのが正統派だとか(いまどきこんなヤツはいない)、いろいろあるでしょうが、要は自分の好きなもので吉野屋のコンセプトにあったものがいいのではないでしょうか。だから私の行動食はスイカ丸ごと1個だというのであれば持ってきゃーいいじゃないですか。持ってくだけの体力があれば。

 あとは山行形態、季節によって変化を持たせることは必要でしょう。常識で考えれば、(これを読んでる人の中に果たして常識の通じる人がいるのでしょうか)真夏の縦走で水もあまりない、けっこう疲れてるなんて時にはパンやビスケットのようなパサパサしたもんは食いずらいですよね。でも思いっきり甘くするとか、すっぱくするとかで味付けを濃くするとけっこう食えるもんです。大昔、バテバテだったときに蜂蜜をちゅるちゅる食ったら復活したこともありました。

 冬だったら水分の多いもんは気をつけないと凍っちゃってて下山するまで余計な荷物を運んだだけということにもなりかねません。寒いときにはようかんのような普段ではまず食いたいとは思わない甘いものがうまかったりします。それに岩登りしてる時なんてなるべく荷物は減らしたいし、腹が減ったからといったって落ちついて何か食ってる時間も場所もないかも知れません。だからだとかチョコだとかアメなんかを手の空いたときに適当に食ったりします。

 というわけでみなさんも実際にいろいろと試してみることをお勧めいたします。ご参考までに私の行動食の変遷について少々。学生の頃(かなり前)は、実際の大きさの3分の1くらいまで圧縮し体積の縮小化と高密度化をはかった食パンと、ジャムあるいはピーナツペーストなど。それに加えて、魚肉ソーセージチーズアメ東鳩のココナツサブレというのが定番でした。冬にはパンが当時プチパンと呼ばれていたクリームやチョコのはいったものに変わり、魚肉ソーセージサラミソーセージに変わるのでした。後日(ほんの数年前の冬)、当時を思いだした私はパン類をやめ、1日にサラミソーセージ2分の1というのをやってみました(確か全部で4本ぐらい持っていたと思う)。これはすごい。何がすごいってあの味の濃いサラミを毎日ひるどきに、それも大量に食うことを想像していただきたい。サラミは嫌いではないがさすがに1日で飽きました。でも酒のつまみとしてはなぜか全部おいしくいただきました。

 学生時代の行動食はどちらかというと人数も日数も多く体力にものをいわせたものであったように思います。その後、社会人山岳会に入会しいろいろと試してみましたが、現在の、私の行動食選定基準には先に記したことに加えて、酒のつまみにもなるという基準が加わっております。

 現在では1年中ほとんど同じものを持ち歩いていますが、内容は、1日あたり、魚肉ソーセージ1本、チーズ1個、ナッツ類(ピーナッツ、アーモンドなど)少々、ビスケット少々あるいはロールパンみたいなのを1個といったところに定着しています。これに加えてときどき、にぼし、干しあんず、たまごワッフル、アメなどが加わったりすることもあります。特にナッツ類と干しあんずはお勧めです。

 それではみなさんのご健闘をお祈りいたします。人がまずいと言ったって自分がうまけりゃいいんじゃー。たまごワッフルはうまいんじゃー。

その3 中村孝氏のレーションは…

 千昌男ではありませんが「ニッポン人ならコメだぎゃ〜!」と思っていますので、学生時代は春夏秋冬を問わず、お昼も(行動食)コメを用意していました。レトルトの赤飯をご存知の方も多いと思いますが、それが冬の行動食です。「行動中にお湯を沸すの?」とお思いの方はまだ青二才です。前夜、就寝前に暖めておきます。そうしておけば、翌日のお昼でも―暖かくはないけれど―美味しく食べられます。永チャンではありませんがライスパワーは「グレィト!」です。そして、こいつのもう一つ有難いところは、それがカイロ代わりになってくれるという事実にあります。暖めた赤飯は、凍らぬよう懐に入れてシュラフに入れますが、これがなんとも暖かく気持ちいいのです。その点でも、腹持ちの良い点でもこのレトルト赤飯には随分とお世話になったものです。余談ですが、寒い時には就寝前にお湯を沸すという手もあります。煮沸消毒の如く沸騰させたお湯はダメですが、適温のお湯を水筒に詰め抱いて眠るという行為は野茂英雄ではありませんが「グッドです!」よ。

 さて、以前は斯様にもマメな私であったのですが、最近は付き合う人間が悪いのか手を抜いております。レーション袋の中は、カロリーメイト(チョコ味)チョコレートアメ玉豆類(ピーナッツとか…)、チーズケーキ(去年の合宿で英ちゃんに貰って美味しかった!)、ドライフルーツ(アプリコットが美味)などです。あと、たまにどら焼きとかが入っています。チーズとか、サラミ、魚肉ソーセージは私の嗜好品ではないので栄養価が高く・・・と言われ、行動食のホームラン王の如き扱いをされていますが、私は持っていきません。いくら栄養価が高くても、口に合わないものは駄目です。吹きさらしの稜線でも、どこでも「食べようかな・・・」と思わせる、自分の大好物を基本に考えていくことが大切だと思います。

 

以上北稜山岳会の作為抽出による3名の行動食についてでした。要するに色々な意味において食べやすいものでないとだめだということではないでしょうか?色々と研究してみましょう。

 

稜友MEMO平成8年12月号  より